江戸時代に「兵庫津」を拠点に活躍した船頭「工楽(くらく)松右衛門」を題材に、大阪、奈良の作家が北前船を描いた友禅染を甦(よみがえ)らせ、神戸市須磨区にある松右衛門ゆかりの国指定登録有形文化財「荒井邸」に寄贈した。来年1月の神戸開港150年目に合わせ、「港の豊かな歴史を広く知ってほしい」と話し、同邸で公開される。(安藤文暁)
松右衛門は高砂出身。同市兵庫区にあった兵庫津の船頭で、北前船の帆に用いた「松右衛門帆布(はんぷ)」を開発し、築港も手掛けた。荒井邸を建てた荒井家の先祖は廻船(かいせん)問屋を営み、奉公していた松右衛門に家督を譲ったことで知られる。
寄贈された作品は縦1・3メートル、横70センチ。当時の海運業を飛躍的に発展させた松右衛門帆布を使った北前船を中央に描き、笛を奏でる童子らや神戸市の花アジサイも色鮮やかに盛り込んだ。
制作したのは、ティッシュペーパーで作るこよりを絵筆代わりに水墨画を描く大阪府大東市の中田伸吾さん(63)と、奈良県五條市を拠点に手描き友禅教室を開く北岸香津代さん(64)。
中田さんは2年前に荒井邸でイベントを開き、播磨町出身の自身と同じ東播地域がふるさとの松右衛門に興味を持った。今年6月、大阪府内の知人に紹介され、北岸さんとの合作が決まった。
「神戸開港前も、兵庫津は主要港として偉人を輩出した。そのPRができる祝いの作品にしたかった」と中田さん。兵庫津は、奈良・東大寺を建設した僧、行基に縁があると知り、奈良に住む北岸さんも「神戸に親近感がわいた」と話す。
作品は近く、廻船問屋の趣を残す荒井邸の玄関で公開展示される。家屋を所有する荒井道子さん(69)は「すてきな作品を多くの人に見てもらいたい。別の場所での展示要望があれば応じていきたい」と喜んでいる。荒井邸TEL078・731・0817
◇工楽松右衛門(1743〜1812年) 高砂出身で、木綿を使った厚手の帆布「松右衛門帆布」を開発。北海道・択捉島でふ頭を建設、1802年に幕府から工楽姓を与えられ、函館や広島県・鞆の浦の築港に携わった。司馬遼太郎の小説「菜の花の沖」では、淡路・洲本出身の豪商高田屋嘉兵衛に影響を与えた姿が描かれる。